入手した作品が完璧の状態であることは稀で、修復、保存作業を実施することで、作品が見違えるほどよくなることが頻繁にみられる。ここでは、補修及び保護作業の基本を説明する。
はじめに
浮世絵の修復を行うのは、表具師の中でも、専門知識を取得したごく一部のエキスパートである。
浮世絵の修復と保存のための標準的な教科書はない。技術やノウハウは「口コミ」や「先輩を見守る」などの伝承形式で伝えられてきた。その結果、修復の品質は修復スタジオ間で著しく異なる。ここでは、浮世絵の修復と保存の理解が促進されるように、以下の5つのステップで解説を行う。
ステップ1. 裏紙、除去
修復と保存の段階の最初の作業は、古い裏紙を取り除くことである。
裏紙を取り除くために、流水が使用される。場合によっては、ぬるま湯または蒸気が適用される。でんぷんが固まり、裏紙が強固に付着している場合、アミラーゼ溶液を使用して、でんぷんをほぐしたり流動化する。
上記の加湿プロセスの後、鉗子、ブラシ、及び/又はヘラを使用して裏紙を手作業にて、注意深く取り除く。一部の修復家は竹鉗子のみを使用する。
紙が壊れやすく、裏紙を取り除くと浮世絵がバラバラになるリスクがある場合は、裏紙を取り除く前に、作品の前面に紙を貼って、散逸しないようにする。
ステップ2. 洗浄と脱色
紙の表面や内部のほこり、汚れ、小さな粒子を物理的に除去するため、鉗子、吸引テーブルなどを使用する。吸引テーブルは、多くの小さな穴のあるテーブルトップと、吸引機に接続された閉鎖形で構成される。水または蒸気を前面にあて、水は紙を通過し、吸引機によって吸引される。吸引テーブルは市販されているが、器用な方ならば、Do it yourselfも可能である。
セロハンテープが残っている場合は、有機溶剤(通常はエタノール)を使用して溶解させる。
作品に付着した着色を脱色させるため使用される化学溶液として、過酸化水素(酸素ベースの酸化漂白)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩化物ベースの酸化漂白)、次亜塩素酸カルシウム溶液(塩化物ベースの酸化漂白)および次亜塩素酸ナトリウム(還元漂白)などがある。薬局で入手できるオキシドールには、安定剤として硫酸塩が含まれており、これは一部の色と問題を生じる。この過程で本来の色が失われることが危惧される場合には、そのような部分に、事前にワックスを塗布して、保護する必要がある。
必要に応じて、化学的洗浄に加えて、ゴムやプラスチックの消しゴムや鉗子の使用などの物理的洗浄も使用されることがある。
ステップ3. 欠陥の修復(虫食い穴の修復)
紙の欠陥/損失と虫食い穴を修復するには、主に2つの方法がある。
パッチ方式:作品の本紙の欠陥部分に、同じ形に正確にカットした紙をはめ込む。修復スタジオでは、さまざまな年代の紙を豊富に取り揃えており、江戸時代(150年)のものもある。パッチは裏紙に接着される。2枚の紙を鍵と鍵で完全に一致させるために、作品をガラス板上に置き、後ろから光を当てる。また、縁を滑らかし、段差がないようにするためにプレスすることがある。
リーフキャスティング法:溶解させたパルプ溶液を、浮世絵全体にまず塗布する。そして、過剰なパルプ溶液を除去し、乾燥させる。この方法の利点の1つは、比較的低コスト及び短時間で、広範囲にわたる多数の欠損を修復可能なことである。
ステップ4. 裏打ちと乾燥
裏打ちには、最新の中性pH紙を使用する。費用効果が高く、耐久性がある。接着はでんぷんで実施する。ケミカルエマルジョンを含むケミカルグルーは使用しない。そのような乳剤は元の紙に浸透すると考えられており、将来の修復が困難になる可能性があるためである。でんぷん接着剤の最も重要な利点は、それが数世紀にわたって使用されており、浮世絵自体に悪影響を及ぼさないことがすでに判明していることである。また、水をかけるだけで簡単に落とせる。
余分な水分は、作品を一種のあぶらとり紙で挟んで吸収する。その後、吊り下げ板に数日から1ヶ月間、貼付したままの状態として、乾燥させる。乾燥プロセスを加速するために、プレス機またはおもりを使用する場合がある。熱を加えると、紙が収縮する。
ステップ5. 着色(必要に応じて)
浮世絵の補修に使われる絵の具は、通常、岩から抽出された顔料を用いる。そのようなミネラル(鉱物)顔料は、江戸時代の浮世絵の色となじみがよく、国宝や重要文化財の修復においても、伝統的に使用されている。ミネラル顔料の調製は手作業で行われる。
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